
税理士 大田区のギャラリー
負債が移転しないのですから、②が充足されていることは明らかです。
また、①が満足する場合は、甲会社の資産内容に変更がないからだということはもう理解されているはずです。
つまり、負債が移転せず資産だけが移転する場合は、物的分割であれば債権者に対し無公告・無催告でいいのです。
ここで、疑問をもたれる方がいるかもしれません。
「資産が乙会社に出ていってしまったのだから、分割後の甲会社は返済能力がなくなっているではないか。
それでも無催告というのは納得いかない」と。
しかし、これでいいのです。
なぜなら、甲会社の債権者は、この分割後、自分は催告を受けなかったことを理由に、乙会社に対して自己の甲会社に対する債権の弁済を請求することができるからです。
もちろん、この場合、乙会社が債権者に弁済をしたときは、乙会社は自己の債務ではない甲会社の債務の弁済をしたのですから、乙会社が甲会社に対して求償できることは当然です。
ここまで読んでこられた読者は、やはり分割後の甲会社と乙会社の資産状態を足せば分割前の甲会社の資産状態に戻るわけだから、営業譲渡や(事後設立に抵触しない)新設会社に資産を移転する従来からの方法に比較して会社分割が特に優れた方法だとも思えない、だから無催告で会社分割することに特別の意味があるとも思えない、と感じられるかもしれません。
しかし、そうではないのです。
商法の条文を離れ、実務的に考えてみましょう。
無催告で会社が分割されたことを知った債権者は、債権回収のためにどのような行動をとるでしょうか。
もっとも回収しやすい方法をとろうとするでしょう。
もしいま、当該債権を被担保債権とする担保物権が設定されていたとすれば、会社分割によってできるかぎり多くの資産を乙会社に移転しようとする場合であっても、当該担保権設定物件は乙会社にとっては魅力のない物件ですから、乙会社に移転する可能性は低く、甲会社に残っています。
実際の実例では、こういう場合がふつうでしょう。
債権者からみれば、乙会社に請求しても乙会社は本来の債務者ではありませんから、乙会社の抵抗が予想され、場合によれば乙会社を被告とする裁判を決意しなければならないでしょう。
したがって、資産はもっているが当該債権の債務者ではない乙会社に対して請求する道を選ぶよりも、本来の債務者である甲会社に対して請求し、当該担保提供者を相手として担保権を行使する道を選ぶでしょう。
そして、通常は、当該債務者が当該担保権設定者であり当該担保物所有者でしょう。
このため、有担保債権者は、無催告で資産が乙会社に移転する会社分割がなされた場合であっても、甲会社に対して権利実行する道を選ぶはずです。
なぜなら、債権者にとって、これがもっとも低コストで債権を回収する方法だからです。
このように、実務上は担保が設定されているかどうかで大きく事態は変わってきます。
会社分割法理の特徴は、債権者の同意なく債務が移転するという点にありますから、会社分割の法理を理解するためには、資産についても負債についても、乙会社に移転することを前提に考察するのが正しい考察方法であるといえます。
実際に、会社分割をどのように使おうかと実務的に考えるときには、これが逆になります。
つまり、乙会社に移転できないものはなにかと考えるのです。
もちろん、抵当権付の不動産の所有権も法律上は乙会社に移転できます。
しかし、実務上は移転できません。
なぜなら、担保設定物件の乙会社への移転は債権者の抵当権実行を誘発しやすいし、乙会社にとって意味がないか邪魔でもあるからです。
せっかく乙会社を新たに設立するのですから、担保のついてしまった役立たずなど甲会社に残したほうがいいに決まっています。
これでおわかりでしょう。
会社分割は、法律的には甲会社の資産や負債を乙会社に移転承継する技術です。
しかし、実務上は、新しく旅立つ乙会社にとって不要なものを甲会社に残していく技術なのです。
債権者からみても、債務超過だからこそ会社分割したほうがいい場合がある。
分割によって債権者への返済額が分割前より増加するのに、それを適法ではないとする議論は間違っている。
会社分割によって、債権者を前より悪く扱うことさえなければいい。
つまり、債権者を害しなければいいと考えるべきである。
特別清算はいろいろな点で優れているが、大きな欠点がある。
それは、個人には使えないことである。
特別清算は株式会社にしか使えないのだ。
前の事例と同じようにみえますが、債務超過と明示されているところが重要でしょう。
国税庁が公表した「平成13年分法人企業の実態調査」によれば、利益計上法人(黒字法人)は31.7%、欠損法人は68.3%です。
これから推測すると、債務超過の会社はかなりの数にのぼると思われますので、債務超過の会社は会社分割ができるかどうかは、緊急性の高い、重要な問題だといえます(債務超過といっても、簿価で考えるか時価で考えるかで対応策は違ってきますが、今回では原則として簿価で考えます)。
放置すれば債務超過のため会社全体が倒産しかねない場合に、将来見通しのある1事業部門を外に取り出して救出することができれば、世の中はどれほど明るくなるかしれません。
会社分割法制度は、将来性のある事業を救出できる技術として広く評価されることとなるでしょう。
この事例では、新設物的分割が適切でしょう。
甲会社は債務超過ですから、新設承継会社乙の資本金は最低限の1000万円にとどめるべきでしょう。
また、課税扱いとなることを心配する必要がありません。
意図的に税法上の「税制非適格」にして、時価で資産を移転し、新設承継会社の発行する新株は全株式を分割会社に割り当てます。
分割会社はその新株を売却して売却代金を分割会社に入金し、負債の返済資金とします。
それでも負債全額の返済の見込みは立たないでしょうから、甲会社に残ったA事業の業績に応じて、分割会社を破産させるか解散し、特別清算の方法で消滅させることが考えられます。
代表取締役が、会社の債務を個人保証しているが、会社がなくなると同時に自分の個人債務もゼロにしたいというのであれば、民事再生のほうがいいかもしれません。
この場合の整理方法は、状況に応じてさまざまな手法があります。
この事例では、債務超過の会社はそもそも会社分割が可能かという問題を検討しましょう。
会社分割についての解説書の一部には、「債務超過の会社は会社分割ができない」と明記しているものがあります。
本当にそうでしょうか。
もしそうならせっかくの商法改正も大して意味がなかったことになります。
しかし、改正商法のどこにも、債務超過であれば会社分割はできないという規定はありません。
また、そのことを推測させる条文もありません。
関係があるかなと思われる条文は、分割会社も新設承継会社も「債務の履行の見込みあること」を記載した書面を会社に備え置け、と規定している条文です。
会社の債権者によっては、自己の債権について弁済が受けられるかどうかは重要な関心事です。
会社分割が行われれば、債権弁済の引き当てとなる資産が流出する可能性がありますから、商法は、分割会社および設立会社または承継会社の支払い能力に関する意見書を取締役に作成させ、それを会社に備え置かせることとしています(374条の2第1項3号、374条の18第1項3号)。
ところで、法務省大臣官房参事官のH氏が、「商事法務」(1565号)で、「(改正商法374条の2第1項3号、374条の18第1項3号が)単に、『履行ノ見込』とせず、『履行ノ見込アルコト』としたのは、債務の履行の見込みのない会社分割を認めないこととする趣旨である」と書いています。
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